漫画やテレビでおなじみの『海猿』。
海上保安庁の『潜水士』のことです。
海中で猿のように敏捷に活躍するイメージから連想して、『週刊ヤングサンデー』に連載された漫画が『海猿』と命名したのです。
では、海上保安庁の潜水士=海猿は、実際どんな仕事をするのでしょうか。
そして、どうしたら『海猿になれるか?』を調べてみました。
『海猿』は海上保安庁の『潜水士』のことで厳しい訓練で選抜される!
オレンジ色のウエットスーツで有名な『海猿』。
小学館の『週刊ヤングサンデー』に連載された漫画『海猿』が原作で、テレビドラマ、さらには映画と瞬く間に大ヒット作となりました。
海上保安庁の『潜水士』のことを指しますが、実は海上保安庁内では 『海猿』とは呼びません。
救難業務に従事する潜水士のことは、そのまま『潜水士』と呼びます。
潜水士は海上保安官なら誰でもなれるものではなく、現場で活躍する海上保安官の中から希望者を募り、適性のあるものだけを選抜して厳しい訓練を行います。
その訓練に耐えられた者だけが、現場の潜水士としての業務を行うことになります。
もちろん潜水士も海上保安官ですから、普段は通常の海上保安業務に当たっている。
なお、潜水士が勤務するのは、救難強化指定船や潜水指定船などの船艇のほか、救難業務に特化した機動救難士(航空基地勤務)や特殊救難隊(羽田航空基地内)などがあります。
機動救難士、特殊救難隊などは極めて高度な技術と体力、知識が必要とされることから、部内での厳しい選抜と訓練を乗り越えなければ現場で救助、捜索活動をすることはできません。
2021年11月5日、第3管区海上保安本部は海難事故現場で人命救助に当たる『潜水士:海猿』の候補者を決める選考会が横浜市中区の横浜海上防災基地で行われました。
海上保安庁の超エリートであり、シンボル的な存在となる『海猿』を目指して、海上保安官27人の精鋭が参加。
『潜水士』は転覆した船や沈没した船舶から遭難者を救出し、または行方不明者の捜索などを業務としています。
ヘリコプターと連携して人命を救助する機動救難士や高度な知識と技術を必要とする海難救助のスペシャリスト・特殊救難隊のスタートラインに立てる資格だ。
選考会には通常業務の合間を縫って、自主トレーニングを重ねてきた21歳~26歳の若者が参加。
施設内のプールを使って25メートルの素潜りや300メートル自由形などでタイムを競った。
選考を担当した同本部警備救難課の佐々木崇夫課長に話を聞くと、このように言っていました。
「意識の高い職員ばかりです。人の命を助けたいと言う今の気持ちを忘れず、業務に取り組んでほしい」
しかし、そんな意識の高い若者ばかりではあるが、選抜されるのは27人中2、3人だと言うから、想像以上の狭き門ですね。
選考会は希望者を対象に年に1度実施され、陸上での走力選考、面接などを経て、合格者は海上保安大学校(広島県)で約2カ月の研修後、国家試験に合格して正式な『潜水士』となる。
『海猿』になるにはどうしたらよいか?
海上保安庁の超エリート『潜水士』になるためには、海上保安大学校または海上保安学校を卒業し、海上保安官にならなければなりません。
『海上保安学校』を目指す場合は次のコースがあります。
・船舶運航システム課程(航海・機関・主計コース)
・海洋科学課程
・航空課程
・情報システム課程
ただし、このうち・航空課程・海洋科学課程に入学すると、潜水士になることはできませんので、注意が必要ですよ。
海上保安学校卒業後は現場での業務経験である、主に巡視船艇での勤務を経て、潜水士を養成するための研修を受けます。
しかし、この研修には厳しい条件があります。
希望すれば誰でも受けることができると言うわけではありません。
まずは本人の希望があり適性が認められる必要があります。
次に年齢で研修実施年度の4月1日現在において30歳以下であることが条件です。
そして、健康診断結果も重要になります。
・裸眼視力両眼共0.6以上(ただし、裸眼視力両眼共0.3以上の場合、矯正視力1.0以上とする)
・握力30kg以上、減圧症既往歴3回以下など、の他聴器の検査、エックス線検査、呼吸器の検査、循環器の検査、その他の検査で異常が認められないこと。
次はもっとも厳しい身体能力検査。
<水泳能力>
1)一呼吸により約23mの水平素潜りができること
2)約300mの水泳ができること
これに陸上での走力テスト等が加わり総合的に勘案され、研修生が選抜されます。
それにしても一呼吸で23mの素潜りとは、もう人間離れしているとしか言いようがありませんね。
研修は約2ヶ月間ですが、前章で述べたように選抜段階がとても厳しい上に、さらなる過酷な訓練が待ち受けているのです。
この研修を無事に終えると最後の難関、国家試験です。
これに合格して始めてエリート中のエリート、海上保安庁の『潜水士:海猿』になるのです。
また、潜水士になっても巡視船に乗り組む海上保安官であることに変わりはありません。
潜水業務だけではなく、巡視船の運航や整備作業等の業務も他の乗組員と同じように行います。
テレビで大人気だった『海猿』はどんなドラマ?
漫画『海猿』は作者が佐藤秀峰で、現場を取材した小森陽一の原案となっている。
1999年から『小学館ヤングサンデー』に連載され、2001年に完結しました。
漫画完結翌年の2002年と2003年にNHKが単発ドラマとして放送しています。
主人公を国分太一、その妻・美晴を永作博美が演じている。
このドラマが海猿ブームの火付け役となったと言えるでしょう。
そして、2004年にはフジテレビの制作で映画化されました。
2005年にはフジテレビがドラマ化。
ヒット作品となり2006年、2010年、2012年とフジテレビで続編が放送されるに至りました。
『海猿』の主人公は仙崎大輔で、海難救助を中心とした海上保安官の活躍を描く物語。
フジテレビ系の作品では映画、テレビともに主人公を伊藤英明、恋人・妻の環菜を加藤あいが演じている。
作中に描かれた事件、事故の一部は原作者・小森陽一氏の取材による現実の出来事をモチーフにしたリアルなストーリーもあります。
漫画連載終盤での北朝鮮による工作船と思われる不審船事件は、タイムリーなストーリーとして大きな話題を呼びましたね。
劇場版映画についてはオリジナル作品としての色合いが強く、原作とかなり内容が違った作品となっています。
ちょっと不思議なのは、あれほど人気のあった映画、TVドラマ『海猿 UMIZARU EVOLUTION』が動画配信サイトで一切配信されないこと。
調べるとこれはどうやら、原作者の佐藤秀峰氏とフジテレビ社員との間でトラブルがあったことが原因のようだ。
したがって今『海猿』を視聴するには、宅配レンタルサービスの『TSUTAYA DISCAS』を利用する以外ないようだ。
『TSUTAYA DISCAS』は30日間の無料お試し期間があります。
その期間中はドラマ『海猿 UMIZARU EVOLUTION』を全話無料レンタルできますよ。
テレビドラマ『海猿』人気も今は昔、内定辞退続出の海上保安官
『海猿ブーム』が去って久しい今、海上保安庁が採用試験の内定辞退者続出に直面している。
特に深刻なのは北朝鮮の漁船が大挙して押し寄せ、緊張が高まる日本海・大和堆をエリアに抱える第9管区海上保安本部だ。
やや古いデータだが2019年、海上保安官を養成する海上保安学校に第9管区採用として入学したのは、採用試験合格者のわずか7%だった。
いわゆる『内定辞退率』は何と93%にもなるのだから、本当に深刻だ。
公務員志望者がお試しで受けたり「労働条件が公務員らしくない」と敬遠するのが主な理由だという。
『海上保安学校』は京都府舞鶴市にあり、生徒数は約640人です。
高校卒業者と卒業見込みの生徒を対象に毎年2回の採用試験を実施している。
合格者は全国に計11ある管区のいずれかへの配置を内示された後、原則1年間給料をもらいながら同校で授業を受け、現場に配置となる。
配置先はおおむね受験した場所で決まるという。
2019年は第9管区内の新潟、石川、長野の3県で受験した439人のうち97人が合格。
合格者全員に第9管区への配置を内示したが、残ったのはたったの7人だったと言うから、寂しい限りですね。
やむなく他の管区で受験した4人を受け入れ、なんとか定員に近い人員を確保したのだと言う。
このような海上保安学校の内定者辞退率は全国でも75%に上ると言うから、やはり深刻だ。
2019年、全国で受験したのは5437人で、そのうち890人が合格し225人が入学。
辞退率は約75%だ。
これを見ても全国的に高いことが分かる。
辞退率が全国でもワーストの第9管区によると、公務員志望者の多くは長期にわたる船上勤務や僻地勤務など海上保安官特有の労働条件を嫌う。
その結果、国や県、市町村などの一般行政職を優先しがちなのだと言う。
治安に直接関わる公務員であっても、転勤範囲が比較的狭い警察や消防に流れてしまうようだ。
さらには「地方より都会で働きたい」という若者もまだ多く、海上保安庁の中でも東京や横浜を所管する第3管区に人気が集まっている。
海上保安庁の人事担当者はこのように言う。
「そもそも、うちは受験期日が5月なので、一般の公務員試験が実施される秋を控えた“お試し受験”として使われているようです」。
さらに、現役の海上保安官から直接聞い話によると、現場に配置されてからも深刻な問題を抱えているようだ。
例えば北海道の海を管轄する第1管区などは大和堆にも行くし、北方領土周辺は頻繁に往来する。
緊張が高まれば、尖閣諸島まで応援に行くこともあるのだと言う。
深刻な問題はこのような時に発生する。
長い航海で心身を病み、航海を終えて帰港すると退職する若者が続出するのだと言う。
定年退職になった保安官を再雇用して、何とか埋め合わせをしているが、人員不足は深刻さを増すばかりでもう限界に近い。
一説によると北朝鮮の漁船と尖閣の警備に人手が割かれ、全国で海上保安官が200名も不足していると言う。
海上保安庁の特殊救難隊の活躍を描いた人気テレビドラマ『海猿』の影響で、かつては海上保安官ブームが起きたことが懐かしい限りだ。
今の受験生は『両親が再放送を観ているのを見たことがある』という程度で、ドラマのことはほとんど知らないと、知人の海上保安官は嘆くのだった。