長万部駅から山線に乗った藤井聡太八冠が小樽駅に、ただ今到着!
その逆でもいい。
たった今、藤井八冠を乗せた山線が小樽駅から長万部駅に向かって発車した。
いつか、そんな日がやって来るだろうか。
藤井聡太八冠が乗ってみたいと言った『山線』は函館本線の一部分だ。
小樽駅から長万部駅間の単線区間を指して、地元ではそう呼んでいる。
北海道の開拓歴史を語るうえで欠かすことのできない、藤井聡太八冠推薦の『山線』をレポートしよう。
小樽から長万部までの「山線に乗ってみたい」と藤井聡太八冠が言った!
「そうですね。山線に乗ってみたいです。」
天才、無敵、異才の名をほしいままにする、将棋の藤井聡太八冠がそう言った。
小樽の高級旅館・銀鱗荘で、2023年11月『竜王』の防衛戦第4局に臨んだ藤井八冠。
見事、4連勝で防衛を果たした翌日の記者会見でのことだ。
「小樽から好きな場所へ自由に行っていいとしたら、どこへ行きたいか?」との質問があった。
それに対する答えが「山線に乗ってみたい」だ。
通称『山線』とは函館~旭川間を走る函館本線の一部分で、小樽~長万部間の単線をいう。
ディーゼルカーが1両または2両で運行するJR北海道の路線だ。
1時間に1本ほどのダイヤで、自然豊かな後志の山間部を走っている。
夏はのんびり走り、冬はひたむきに、たくましく行くのが山線だ。
これぞ、まさしく昭和のローカル線だ。
明治時代から北海道の発展を支え続けた栄光の路線でもある。
大自然の中を走る山線は、トンネルばかりの新幹線とは大違い!
できる限りトンネルを掘らないようにして線路を敷いた『山線』は、自然に沿った線形が維持されているから、汽車旅の醍醐味が味わえる貴重な路線だ。
トンネルだらけの新幹線とは全く趣が違う。
車窓からシラカバ、エゾマツ、トドマツなどの原生林を眺められて、北海道の大自然を満喫できる。
羊蹄山から連なる雄大な山麓にも、つい見惚れてしまう。
山線の座席で流れ行く車窓の景色を見ていると、心が落ち着きリフレッシュされる。
雪景色もいいし、白樺の梢が萌えて山桜の咲くころは最高だ。
輝くような緑の原野もまぶしく、黄金と深紅の山々も忘れ難い。
函館本線の山線は日本の近代化を担った貴重な遺産
函館本線は明治時代に開通した、現存する北海道最古の主要鉄道でもある。
明治から北海道の開拓歴史とともに走り続けたのだ。
かつての山線は函館と小樽、札幌を結ぶ重要な役割を担い、開拓時代から北海道の開発・発展には欠かすことのできない存在だった。
長崎県の軍艦島などと並び、日本の近代化を担った貴重な遺産なのだ。
だが、山線の活躍を記憶にとどめている人は少ない。
だから安易に廃線を決めてしまうのだ。
もう明治はおぼろげで、昭和も遠くなりにけりである。
同じ函館本線でも早くから電化され、快速エアポートなど運行本数の多い札幌方面とは、まるで違う趣を持つのが山線だ。
しかし、昔の栄光をしのばせつつ田舎の雰囲気が満喫できる『山線』も、北海道新幹線の札幌延線と引き換えに廃線が決定された。
だが、今ならまだ乗るチャンスは十分ある。
忙しい藤井聡太八冠にも廃線になる前に、ぜひとも乗ってもらいたい。
これが『山線』の全駅だ。
スキーなどウインタースポーツを中心に北海道が世界に誇るリゾート、倶知安・ニセコ地区も通るので体験してみよう。
函館本線と山線の歴史
北海道に最初の鉄道が走ったのは、1880年(明治13年)官営幌内鉄道運営の手宮~札幌間だ。
この運行が、のちの山線誕生のきっかけとなる。
手宮~札幌間の運行を見て、北海道の開発には鉄道網の整備が急を要すると、当時の明治政府は再認識する。
中でも函館~小樽~札幌間を結ぶ鉄道建設が急がれた。
1902年(明治35年)に、私鉄北海道鉄道が小樽~蘭島で開業し、1904年(明治37年)には函館~小樽間が全通する。
山線の運行開始だ。
北海道炭礦鉄道と改称した官営幌内鉄道と私鉄北海道鉄道は1905年(明治38年)にレールがつながり、函館~札幌間が開業。
これが函館本線の本格的な始動であった。
戦前は日本統治下にあった樺太と本州を結ぶ、大動脈となったのが函館本線だ。
函館~稚内間には急行列車が運転され、豪華な特別室付きの2等寝台車を連結して走り続けた。
本州から最短、最速で樺太への玄関口である稚内へ行くために、山線の果たした役割は大きかったのだ。
明治、大正、昭和と山線は、きわめて重要な幹線だったことがわかる。
山線があるなら海線もある?
北海道の鉄道に山線があるなら、海線もあるのでは?
そう考える人も多いと思うが、その通り海線もある。
函館本線の一部と室蘭本線、千歳線を経由し札幌へ至るルートが海線と呼ばれている。
多くの貨物列車や特急列車が駆け抜ける、今や北海道随一の路線だ。
特に1988年(昭和63年)3月に青函トンネルが開通してからは、本州と北海道を結ぶ物流の大動脈として、道内の産業や人々の生活には欠かすことのできない存在となっている。