7千万円の借金が税務署の援護で帳消しになった本当の話!

人生

『沈黙は金(きん)なり、雄弁は銀(ぎん)なり』と言いますが、私は

「男は口の堅さが金になる」と教わりました。この場合はカネと読みます。

 

この金言を守り抜き、約7000万円の借金が帳消しになった。

陰には税務署員の援護があったのだ。

 

『熱血と冷静』刑事ドラマのコンビのような税務署員二人との激しい攻防。

経営者には決して好かれることのない税務署員にも粋な男がいた

約束は守る・口の堅さと7千万円の交換

指切り

日本橋税務署の署員二人と話し合いを始めてから、すでに3時間近くが経過していた。

かなり激しいやり取りが続いた。

 

税務署側の二人のうち、若い坂元君が実にしつこく噛みついてきた。

職務に忠実で正義感が強く、立派な税務署員なのだが何といってもまだ若かった。

 

時には激高するのだから声の大きいこちらが反論すると、誰が見たって喧嘩に見えてしまうだろう。

例えばこんな風だ。

 

「社長、この取引は赤字ですよ!赤字!!

なんで、赤字を被ってまでこんなことするんですか!?」

と大声でまくし立てる。

 

こっちが反論する。

「赤字の取引は犯罪なのか?

だったら、お前が警察と協力して日本中の赤字会社の社長を全員逮捕してみろよ!」

 

年配の方は口数は少ないが、冷静で論理的、かつ低姿勢だった。

「社長、最初から言っているように御社には一切のお咎めはありませんから、S建築から脱税を頼まれたと一言いってくれればいいんですよ」

 

3時間も言い合っているから、お互い言うべきことは出し尽くしてしまった。

同じことを何度も繰り返すようになっていた。

 

それでも、若い坂元君は必死に食い下がってくるが、こちらも少々面倒くさくなっていた。

「ハイ頼まれましたよ。

だから普通の仕事と同じように取引しました」

 

もう、何を聞かれても、そう答えることにした。

二人のやり取りをしばらく黙って聞いていた上司が言った。

 

「坂元クン、ダメだこの社長は、もう何を言っても無理だよ。

もう、帰ろう」

 

昨日の夕方に突然、上司の方から電話があったのだった。

猶予は明日一日しかない、だからぜひ会う時間をくれとの連絡だった。

 

なぜもっと早く来なかったのか、なぜ急遽こちらへの事情聴取が必要になったのか、その辺のことは説明がないのでわからなった。

 

ただ、S建設との2億円を超える取引は明らかに脱税に当たるから、脱税を頼まれたと証言して欲しいとのことだった。

 

2億円を少し超える取引で2億円の脱税を問われるのだから、S建設もやり過ぎではある。

トリックはこうだ。

 

S建設の所有するゴルフ会員権をS建設の決算直前に、我社がまとめて2億数千万円で買い取る。

売却前のS建設の帳簿価格は4億円超だったから、この売買によって2億円の損益が出る計算だ。

 

そして決算後、2ヵ月ほどしてS建設がすべての会員権を買い戻す。

弊社は1千万円ほどの赤字を計上した。

 

当時は会員権譲渡の際に出た損失と他の所得との損益通算が可能だったのだ。

これを利用したのです。

 

弊社はゴルフ会員権売買も定款に入っていて、取引実績もあるから税務署はこちらの証言なしに脱税を認定することは難しいということだろう。

 

この取引、S建設が買い戻しをしなければ全く問題にはならい。

それにしても、二ヵ月後の買い戻しはあまりにも露骨だろう。

税務署を挑発しているようなものだ。

 

私は半年後の買取りを薦めたのだが、相手は言うことを聞かなかった。

帳簿上は1千万円近くの赤字を計上していたが、別の理由で100万円ほどの手数料を受け取っていたから、こちらには実質的な痛手はなかった。

 

尚、ゴルフ会員権の損益通算制度は平成25(2014)年4月1日をもって廃止されている。

ゴルフ会員権の値下がりが激しく、還付金が増え過ぎたことによる措置です。

 

私は二人をエレベーターまで送った。

「お役に立てずにすみませんでした」

と頭を下げた。

 

上司が言った。

「社長、ここまで頑張ったのだから、あの6千800万円の借金はチャラにしてもらいなさいよ」

 

S建設のやったことは明らかに脱税だった。

だが私が頑として口を割らなかったのは、この6千800万円が原因だった。

 

さすがは税務署だ、よく調べている。

3時間に及んだ話し合いでは二人とも一言も言及しなかったが、しっかりと把握していたのだ。

 

日本橋税務署の上司の方、名前は忘れたがなかなか粋な男ではないか。

坂元君に対しても、怒りや嫌な思いはこれぽっちもなかった。

 

二人ともまじめで職務に忠実な男だった。

『熱血と冷静』刑事ドラマのコンビのようで素晴らしいと思った。

 

これほど徹底的にやり合えば、むしろエレベータの前では3人ともさっぱりしていた。

少なくとも私にはそう見えた。

 

だが、税務署と雖もこの6千800万円がどうして弊社の借金になったのか、その危うい性質にまでは思いもよらないだろう。

 

この借金に関してはとても複雑な経緯があった。

弊社の社員とノンバンクの社員絡みで事件性もあったのだ。

 

S建設は株主への対策として刑事、民事両方で訴えると言い出したから、こちらは弁護士費用さえままならない状況にあったので、借金とすることで折り合いをつけた。

 

ベテラン税務署員が『借金をチャラにしてもらうだけの価値が十分にある』と言ってくれたのは本当にうれしいことではあった。

 

だが、即座にこのことをS建設の経理担当部長へ伝えることはなかった。

これまでの両社の深い関係と6千800万円のことなどを考えると、そう簡単には切り出せなかった。

 

日本橋税務署のベテランが私からの言質をあきらめて帰ったのだから、2億円の脱税は上手くいったはずだ。

だが、S建設の経理部長からはその後、何も連絡はなかった。

 

借金をチャラにしてもらうことはあまり考えてはいなかったが、約束は守りましたよ。

私は御社の不利になるようなことは一切言わなかった。

 

税務署が思わず『参った』というほど口は堅かったよ。

そのことだけは分かって欲しいと考えていた。

 

税務署員との丁々発止から3ヶ月ほどして、S建設の経理部長から別件で電話があった。

私は彼を会社に尋ねた。

 

用件が済んだところで聞いてみた。

「部長、あの2億円の件は上手くいきましたか?」

 

「えっ?あ、あれね。

ダメダメ、税務署にほとんど否認されましたよ」

 

ムカッと来た。

「日本橋税務署の人が言っていましたよ。

これほど頑張ったのだから、借金はチャラにしてもらいな、って」

 

私はこの時の部長の表情が、今もって忘れることができない。

人間の顔色はこんな風に変化をするものなのか?

 

私の一言を聞いた部長の顔色が変わった。

赤ら顔が額から顎までサーっと、青ざめて行くのがはっきりと分かった。

 

まるで顔パックの素材を額の方から一挙に剥がすように顔色は変わっていくのだった。

コンマ何秒のことだったが、あんな激しい表情の変化は初めて見た。

 

「ちょっと、ちょっと待って」

そう言い残して部屋から出て行った。

かなり動揺している。

 

15分ほどして部長は戻って来た。

「中塚と相談したのですが、御社と弊社は一切の取引はなかった。

貸し借りも全くなかった。

そういう事にしていただけますか?」

 

部長の言う中塚氏とはS建設の社長だ。

バブル崩壊後、建築業界はまだまだ不況から脱し切れずにいた。

 

あの2億円は、S建設の命運を握るほど意味のある金額だったのかも知れない。

6千800万円の借金の担保として預けていた、ゴルフ会員権の証書までその場で返してくれた。

 

『男は口の堅さが金になる』

T社の社長から教わった言葉は、まさに金言だった。

 

 

T社社長とのエピソードはこちら!

 

 

 

 

 

 

 

 

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